私は旅行に行くのにあたって、観光ガイド本などを買って観光情報などを読むことはあまりしません。
ネットさえつながれば、トリップアドバイザーでレストラン、ホテル、観光スポットなどの情報は私にとっては十分得られるからです。
世界最大の旅行サイト【トリップアドバイザー】
特に食事にこだわる人であれば、レストランを1〜2カ所、観光ガイド本で調べてメモしておけば十分ではないでしょうか。
私の友人では、安定感を求めるのであれば地球の歩き方、少し値段が張ってもオシャレさと味においてピカイチ!という店を求めるのであればことりっぷを読む人が多いと思います。
さて、一方、旅行に行くにあたって、その国の政策、外交、何より歴史を頭に入れようと思うと、ネットに落ちているウソかほんとかよくわからない情報だと物足りないと感じます。
最低でも「1.その国の歴史」を、できればそれに加えて
2.現在の政策
3.その政策を選ぶに至った背景
4.文化、とくに宗教
5.周辺の関係国との関わり(領土・外交・戦争)の歴史
の情報を入れて行くと、旅行に行って得られるものがはるかに深くなるように思うのです。
今回のロシア旅行にあたって、この5つを得るために一番良さそうだと思ったのが、おなじみ、ジャーナリスト・池上彰氏の著書「
池上彰のそこが知りたい! ロシア
」です。
「1.その国の歴史」について、歴史を知ることのメリットの特に大きなものの1つが「歴史は繰り返すので、歴史を学ぶと、未来を予測できる」というものがあります。
世界中のいろんな国が、同じような状況になるたびに、同じ歴史を何度も繰り返しています。
だから、歴史を知ると、現代でも同じような状況に遭遇した時に、他国がどのように判断しがちか、また、その判断がどんな結果をもたらすかを予測する楽しみができます。
ロシアという国は、世界でも類を見ないほど、過去、同じような歴史を繰り返しまくっています。
・独裁者がよく育つ
・人事は好き嫌いで決まる
・したがって革命もよく起こる
・東西への領土拡大の侵略戦争はあまりしないが、南は常に狙っている
・外交は超・上から目線
・戦争を仕掛ける時は、基本奇襲
・しかも「戦争しない」と念を押して言いふらした上での奇襲
・自分から仕掛けておいて、情勢が悪くなったらじわじわ後退
・だから1回の戦争の死者数が半端なく多い
・防衛戦争にめっぽう強い
・戦争の後の終戦交渉もめっぽう強い
・侵略した国の民族はシベリア送り
など、何度も同じことを繰り返しています。
さらに、池上彰氏がまとめた同著によると、以下のようなことも繰り返されているようです。
・強気の外交をするトップが人気(アメリカで言うと民主党タイプより共和党タイプ)
・強気の外交をするトップなら独裁者でも人気
・原油が上がると強気だが、下がると経済は崩壊するレベルになって少し弱気に
・気に入らない大統領取り巻きは処刑
・処刑されたとき、大統領声明は「犯人の狙いは『(大統領が)処刑した』というイメージを大衆に植え付け、大統領の失脚を狙っているのだ。このような陰謀には屈しないぞ。」
・戦争のきっかけは自分で起こし、「助けてくれと言われたので。」と言って出兵、侵略
・資本主義国とは絶対に国境を接しない(接しそうになったら侵略して傀儡国家を建てる)
「2.現在の政策」については、クリミア併合、北方領土問題、核兵器、メディア支配、エネルギー支配、チェチェン紛争などについても解説しています。
そして、この1.と2.を併せて読むことによって、「3.その政策を選んだ背景」がわかる上に、1.2.3.まで併せて読むと、この先、ロシアがどうなりそうかまで予想できます。
「東には積極的に攻めないから、ロシア側も北方領土問題はどちらかというと解決したいはず」
とか、
「南(ウクライナ、アフガニスタン)との抗争は今後も続く可能性が高い」
とか、
「原油、ルーブルが安い今が、北方領土問題の解決のチャンス」
とか、
「スターリン政権の最長任期の2024年くらいまでは、冷戦時代みたいな東西対立を煽ってきそう」
とか、
「ウクライナ人、また大量にシベリアに飛ばされちゃうんじゃないかな」
とか、予想できます。
そして、これくらいまで頭に入れて街に観光に出ると、
「モスクワではレーニンもスターリンも飾られていないのに、サンクトペテルブルクではスターリンの顔写真が入ったお土産が売っていたり、イルクーツクではレーニンの像が建っているのは、より経済が厳しい地方では、過去の独裁者への哀愁があるのか。」
とか、
「今、モスクワやサンクトペテルブルクでプーチンの顔写真入りのグッズが大量に売られているが、2024年以降は、今、スターリングッズが売られていなかったり、今、中国で毛沢東グッズが売られていないように、プーチングッズもなくなるかもな。」
とか、
「歴史上長いこと、軍港としてしか価値のなかったウラジオストックに、ここ数年でかなり無理矢理っぽくおしゃれな店を出したり、綺麗なビジネスホテルを作ったり、いったい何人が利用するのかわからないバカでかい橋やオペラ劇場を作っているのは、極東に媚を売ってるからか。」
とか、想像できます。
同著ではロシアの「4.文化と宗教」(ロシア正教です)とその歴史についても解説しているので、モスクワのクレムリンや、サンクトペテルブルクの教会や宮殿を見た際に、それを建てた人たちに思いを寄せるだけでなく、近年になってやたら教会や宮殿が保護されたり修復されているのは、宗教と仲良くしたいスターリン、ブレジネフ、プーチンらの独裁色の強い政権の影響なのかと予想もできます。
そして、ロシアという国は、同じ社会主義国の北朝鮮や中国とは違い、過去の自国の政策の失敗の歴史について、政府はオープンにし、国民はネタにするということも繰り返してきました。
それも、国内政策の失敗ではなく、過去の諸外国への犯罪的な行為もオープンにします。
だからロシアにはKGBの過去の悪行を見れる博物館もありますし、核シェルターを改造してソ連時代の核兵器の開発状況を見れる博物館もあります。
スターリンが気に入らない政治家や民族(ユダヤ人など)を大虐殺した強制収容所の実態を見れる博物館もありますし、日露戦争前からソ連崩壊までの外国を侵略して来た歴史を見れる博物館もあります。
これらを、池上彰氏が膨大な取材と文献調査の上でまとめた「5.周辺の関係国との関わり(領土・外交・戦争)の歴史」を読んだ上で訪問すると理解が深まります。
そして、今のロシアの周辺諸国との関わりの歴史は、日本、アメリカ、旧ソ連の国々はもちろん、ドイツ、中国、北朝鮮、ベトナム、インド、パキスタンなどからイスラム国にまで多大な影響を与えています。
なので、ロシア以外の国に行って、歴史博物館を見たりしたときも、ロシアの歴史を知っている方がすごく理解が深まるのです。
アメリカの経済誌フォーブスで「世界で、最も影響力のある人物ランキング2015」では、2年連続でプーチンが1位に選ばれていますので、世界情勢を知るのにさけて通れないのがロシアの動向だと思います。
世界情勢のニュースを理解したい方、あるいはロシア・東欧に旅行に行く方で背景を理解したい派であればこの本はオススメです。